うしろの女性と書くとNintendoから出ている『ファミコン探偵倶楽部II うしろに立つ少女』っぽい感じがしますが、ホラー要素はありません。
ふしぎなことが好きです。いつか自分の身にも起きたらいいなと思いながら過ごしていました。そう思いつつも頭の中では「きっとそんなことは起こらないだろうな」という思いもありました。そんな私に起きた数少ない「ふしぎだな」と思うできごとを紹介したいと思います。
卒業論文のテーマを決めるため
卒業論文のテーマを決めるため、ゼミの教授にそれぞれ課題が科されました。しかしゼミの時間内では終わるはずもなく、夏休みに教授の別荘で遊びがてら卒業論文の方向性だけでも決めることとなりました。
そこで起こった私にとってはふしぎな出来事について書かせていただきます。
山梨県、甲斐大泉、教授の別荘
ふしぎなことは私が21歳前後のときに起きました。場所は山梨県、甲斐大泉駅が最寄りの簡素な町並みでした。時は真夏。強い日差しの中にあっても関東よりは断然過ごしやすい気候でした。
私、正確には私たちはゼミの教授の別荘へそれぞれの卒業論文のテーマを練りに集まっていました。その別荘は建ててからそれほど月日の経っていないログハウスでした。スウェーデン産の木材の香りととんでもなく高価なオーディオセットがあることが印象に強く残っています。
話の本筋とは関係ないのですが教授はクモが嫌いでした。苦手なのではなく忌々しく思っているようでした。別荘に蜘蛛の巣があると蜘蛛に向かって悪態をついていました。何でも蜘蛛の落とす糞は床にこびりついてしまって取りにくいとのことでした。
さて、卒論合宿とは言っても缶詰にされるわけでもなく、頭が煮詰まったら外に散歩に出て、路上販売のお店でズッキーニや瓜を買ったり、八ヶ岳を眺めに行ったりと自由がありました。
小川でのイワナ釣りも好きでした。目で見えるくらい大きなイワナが数匹いたのを覚えています。イワナの怪のようなことが起こらないかなとワクワクしていました。
時間がゆったりと流れ、本当に良い場所です。google mapsで確認したところ、まだ別荘の方は取り壊されていませんでした。今度ゆっくりと眺めに行ってみたいものです。
1日目の怪異
話が脱線しました。卒業論文の方は、私は結構進んでおり、もう少し課題を乗り越えることができれば卒業論文の骨組みはできあがるというところまで来ていました。
そのため、掃除や夕飯の準備、新しく増築する倉庫の木材に防腐塗料を塗る作業など雑務を任されていました。
つまり、勉強をしに別荘へ行ったのではなく、労働力として参加していたのです。
1日目の夜がやってきました。ログハウスは二階建てになっており、2階部分は布団が10組くらいある大きな部屋と階段と直結しているロフトのような場所に分かれていました。男性と女性の比率が1:9であったため、大きい部屋が女性の部屋、ロフトが男性と分かれました。
ふしぎな部屋に怯える女性
あるゼミ生が2階のドアを開けた時、うしろから「ヒッ」と声をあがりました。そしてその女性は「私、この部屋で寝たくない」と言い出しました。
曰くに「部屋の右奥の方に何かよくない雰囲気を感じる」とのことでした。教授に相談するのは悪い気がしたので、その日はその女性に我慢してもらい、部屋の左手前で寝てもらいました。ドアは開けておいてほしい、との要望があったのでそのようにしました。
他のゼミ生はというと何も感じるところはないようでした。その不穏な空気を感じた女性は霊感があるということで他のゼミ生も納得していたようです。
詳しくその女性に話を聞いてみたところ「奥に通じちゃいけない道がある」とのことでした。私には部屋の隅が薄暗くなっていることしかわかりませんでした。
私自身はふしぎなことは好きでも霊感とか霊視とかあまり興味がありません。幽霊よりも妖怪や怪異現象の方に興味があったからです。
とにかく、私にはわからないけれど嫌な気持ちになったのだな、という感じで1日目を終えました。そもそも事故物件でもないし、隣は国有林だし、幽霊が出る余地もないのではないかと思っていました。それよりもうしろから「ヒッ」と小さな悲鳴をあげられた方が怖かったです。
二日目の怪異
朝、6時半頃クラシックの音が聞こえてきて目が覚めました。そして教授の口笛のうまさに驚きました。本当に鳥のさえずりのように聞こえたのです。教授は正真正銘の江戸っ子でしたので、私は素直に「粋だなあ」と感嘆させられました。
その日も私は雑用をこなしていました。庭で何本もの木材に防腐塗料を塗り、乾かしては塗り、また乾かしては塗る。そんな作業で1日が過ぎていきました。他のゼミ生も頭脳労働で疲れていたし、私も肉体労働でへとへとでしたので夕飯はカレーライスにすることになりました。
前日の夜のことも忘れて、皆でスーパーへ買い出しにいきました。必要なものとそうでないものを教授に買ってもらい、一同帰路につきました。例の女性も前夜のことはすっかりどうでもよくなったようで安心しました。
うしろの女性
夕飯を食べるとまた勉強会が始まりました。私は邪魔をしないように台所で使った食器類を洗うことにしました。
ここで補足ですが、教授の別荘は入口を入って左側に台所とお風呂場があり、その先は行き止まりでした。勉強会は右手側にあるリビングの大きなテーブルで行われていました。つまり台所とお風呂場はうしろと前の関係でした。
食器を洗っているとふっと誰かが私のうしろを通るのを感じました。少し明るめの髪だったので「あの子がお風呂にでも入るのかな」など考えながら洗い物を続けていました。
リビングへ戻るとゼミ生が全員いることに驚きました。「あの子かな」と思っていた女性もうんうん唸りながら課題をこなしていました。リビングにはゼミ生誰一人欠けていない。ではあのうしろを通り過ぎた女性は一体誰だったのだろうか。
三日目、帰路そして考える
中央道を走っている時、私は釈然としない気持ちでした。昨晩の出来事は一体なんだったのだろうという思いが頭から離れませんでした。あの「うしろを通り過ぎた女性」は一体誰だったのだろう。
あの女性がうしろを通り過ぎていったことは確信しています。しかし、実際はリビングで課題に取り組んでいました。彼女の様子から「ちょっとお風呂に入ってきた」というのは無理があります。なぜなら誰も髪が濡れていなかったからです。
談合坂サービスエリアで一息つくと、その思いは次第に確信に変わっていきました。ふしぎな何かに出会ったのではないかという確信です。
ふしぎな体験というものは、その体験をしているときはあまり気にも止めないことで、後々からふしぎに思えてくるものなのだとわかりました。
その考えに行き着いたことは、別荘にあった全ての木材に防腐処理を施せたことよりも、達成感を感じました。自分にもふしぎな体験があったのだと嬉しく思いました。
まとめ
ふしぎな体験というものは、その体験をしている時は何とも思えないことでも、後々から考えてみると不自然な出来事だったと思うものです。うしろの女性はまさにそのような出来事でした。
今回は霊もお化けも怪異も出てこない体験でしたが、半生を振り返ってみると、今頃になってふしぎに思うことは結構あったなと思います。
皆さんもそんな体験があるのではないでしょうか。
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