板鬼は読んで字の如く板の鬼です。これはおそらく板に見えない鬼が取り憑いているのではないでしょうか。その結果、人に危害を加える妖怪になったのではないかと思います。 In English.
付喪神としての板鬼
板鬼は、木造の家屋の板に取り憑く付喪神の一種として捉えられている側面があるようです。特に板や床、壁などに宿る特徴があります。板鬼の特徴としては悪意を持ち人に害を為す場合もあります。他にはギシギシと物音を立てたり、建物の構造に異常を引き起こしたりするようです。
このように板鬼は家の中での不可解な現象を引き起こすことがあり、古い家に住み着く妖怪として恐れられてきました。特に古い家ではその傾向が強くみられ、それが元で付喪神の一種と思われている節があります。
板鬼は付喪神か
付喪神は100年を経た物が妖怪になる現象を指します。しかし、木造建築では重要文化財や国宝級の建物でなければ100年も持たないと思います。一方で板という物が妖怪になったという点においては付喪神なのかもしれないです。
もしかしたら板は再利用できるため、100年経った板が新築の木造建築に使われたのかもしれません。神社仏閣も長い歴史のある建物です。そういった経緯で付喪神になったのかもしれません。
付喪神は家の運気に影響を与えます。板鬼は家に対して確実に悪い影響を与えていると思います。
板鬼の仕業
一番有名な例は今昔物語集に載っている話でしょう。それについては後に載せたいと思います。江戸時代の板鬼の仕業は次のようなものが挙げられます。
- 老朽化した床を修理しても、すぐに壊れたり歪んだりする
- 夜になると板が自ら動いているかのように音を立てる
- 床が軋んで何かが這いずり回っているような音がする
このような現象が起こったときお祓いを行い、そして板鬼の悪行を封じたそうです。
今昔物語集に残っている板鬼
平安時代の侍には”宿直”の役がありました。宿直の主な役割には宮中や貴族の屋敷の警護や護衛があります。これは夜間の見回りをすることで、不審者、火災そして盗難などの危険から貴族や財産を守る意味合いがありました。夜通しの警戒であるため怪異と出会うことも多かったのではないでしょうか。
その侍が板鬼に出会ったときの様子このように述べています。
今昔、或る人の許に、夏比若き侍の兵立たる二人、南面の放出(はなちいで)の間に居て、宿直(とのゐ)しけるに、此の二人、本より心ばせ有、□也ける田舎人にて、大刀など持て、寝で物語などして有けるに、亦、其の家に所得たりける長侍の、諸司の允五位などにて有けるにや、上宿直にて出居(いでゐ)に独り寝たりけるが、然様の□なる方も無かりければ、大刀・刀をも具せざりけるに、此の放出の間に居たる二人の侍、夜打ち深更(ふく)る程に見ければ、東の台の棟の上に、俄に板の指出たりければ、「彼(あ)れは何ぞ。彼(あしこ)に只今板の指出づべき様こそ無けれ。若し、人などの『火付けむ』と思て、『屋の上に登らむ』と為るにや。然らば、下よりこそ板を立て登るべきに、此れは上より板の指出たるは心得ぬ事かな」と、二人して忍やかに云ふ程に、此の板、漸く只指出に指出て、七八尺許指出ぬ。
「奇異(あさまし)」と見る程に、此の板、俄にひらひらと飛て、此の二人の侍の居たる方様に来る。然れば、「此れは鬼也けり」と思て、二人の侍、大刀を抜て、「近く来ば切らむ」と思て、各突跪て、大刀を取直して居たりければ、其(そこ)へは否(え)来ずして、傍なる格子1)(かうし)の迫(はざま)の塵許有けるより、此の板、こそこそとして入ぬ。
此く入りぬと見る程に、其の内は出居の方なれば、彼の寝たりつる五位侍、物に圧(おそ)はれたる人の様に、二三度許うめきて、亦、音も為ざりければ、此の侍共、驚き騒て、走り廻て人を起して、「然々の事なむ有つる」と告ければ、其の時、人々起て、火を燃(とも)して、寄て 見ければ、其の五位侍をこそ真平に□殺して置たりけり。板、外へ出とも見えず。亦、内にも見えざりけり。人々、皆此れを見て、恐ぢ怖るる事限無し。五位をば即ち掻出にけり。
此れを思ふに、此の二人の侍は、大刀を持て切らむとしければ、否寄らで、内に入て、刀も持たず寝入たる五位を□殺してけるにこそは有らめ。其れより後にや、其の家に此る鬼有けりとは知けむ。亦、本より然る所にて有けるにや、委く知らず。
然れば、男と成なむ者は、尚大刀・刀は身に具すべき物也。此れに依て、其の時の人、皆此の事を聞て、大刀・刀を具しけりとなむ語り伝へたるとや。
今昔物語集 巻27第18話 鬼現板来人家殺人語 第十八
現代語要約
二人の宿直の侍が徹夜で物語をしていた。二人には武道の心得があったため刀を所持していた。その二人とは別にもう一人の役人が寝ていた。彼は武道の心得がなかったため、刀を持っていなかった。
夜が明くる頃、二人の侍は東の棟の方に板が突き出ているのを見た。人が火をつけに屋根に登ったのかもしれないと思っていると、およそ2mばかり伸びてきた。
やがてひらひらと飛んできた。「これは鬼に違いない」と二人は思い太刀を抜き「近寄るのならば斬る」と構えた。
ところが板は近くの格子の隙間から家の中に入って行ってしまった。その部屋は役人の部屋であった。二、三度の呻き声がすると音がなくなった。駆けつけてみると役人は真っ平に潰されて死んでいたという。驚いて例の板を探して回ったが、出て行った気配もないのに、どこにもなかったらしい。
二人の侍は「近寄るのならば斬る」と構えていたため板鬼は他に標的を定め、刀を持っていなか
板鬼の地域性
京都・奈良
古都京都には数多くの木造建築が残っています。古い木製の扉や障子そして床板に「何かがいる」という考え方をする人も多かったようです。ある寺では雨の晩になると床板が軋んだようです。そしてその音が止むと必ず不吉なことが起こったというそうです。
東北地方
東北地方は厳しい自然環境の中で家屋が非常に重要な役割を果たしていました。そのため、長く続く家も多く、板鬼だけならず古い道具の付喪神も多いようです。特に天井板には特別な思いがあったようで、そこに触れると不運を招くという。
北陸地方
北陸地方は気候の関係で木造家屋が老朽化しやすい土地柄です。そのため建物の一部が鳴ったり、ずれたりすることがありました。それを板鬼の仕業だと解釈されることがあったようです。
四国地方
四国は四国八十八箇所巡礼で有名な通り、山岳信仰が強い地方で、自然と妖怪の結びつきも強いです。板鬼も自然の霊が宿る木材が家屋に使用され、その力を保ち続けた結果生まれた存在として語られたという説もあります。四国では東北地方とは異なり、柱も板鬼になると思われていたようです。
まとめ
板そのものは何をしても動きません。その板に霊的な存在又は見えない鬼がとり憑き、板鬼となるのでしょう。そして家の運気に影響し、間違いなく悪い影響を与えているのではないでしょうか。
今昔物語集にもあるように古くから人に知られた妖怪に違いありません。鬼なのか付喪神なのかよくわかりませんが、人間に仇なす妖怪であることは確かなようです。
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