化け狸

信楽焼のたぬき Shigarakiyaki
信楽焼のたぬき Shigarakiyaki

化け狸、これもよく人を化かす。日本でよく見られる親しみ深い動物ではありますが、人を化かすとなると妖怪と言わざるをえない。 In English.

狸
狸 鳥山石燕

狸信仰

狸信仰も古くから日本各地で見られる民間信仰の一つです。特に四国の徳島県や香川県ではその傾向が強く見られます。狸は古来より変身能力を持つ動物とされてきました。特に「化け狸」として人を化かす存在として有名です。

しかし、同時に親しみ深い動物でもあり財産を守る守護者や金運・繁栄を招く存在としても信じられていました。このことから狸を神聖化し、祀ることで、商売繁盛や家内安全さらには良縁成就など、様々なご利益を祈願するようになりました。

近畿地方の滋賀県の信楽といえば「信楽焼のたぬき」を思いつく日本人も多いでしょう。この縁起物もそんな狸信仰から来ていることもあります。

信楽焼のたぬき Shigarakiyaki
信楽焼のたぬき Shigarakiyaki

信楽焼きのたぬきの八相縁起

滋賀県信楽名産の「信楽焼きのたぬき」には八つの縁起を表した特徴があります。特に商売繁盛や家内安全の効果は高いようです。由来は「他」を「抜き」という名前から「他の店より繁盛しますように」という願掛けで店先に置いてあることが多いです。

さて、八相縁起ですがこれについては滋賀県信楽の出身では無いので、違うこともあるかもしれません。関東に伝わるにつれて意味合いが変わったものもあるかもしれないのでご了承ください。

  • 笠:笠を被った姿は、災難や悪天候から守る危機回避の象徴です。
  • 目:大きく丸い目は、洞察力や商売の見通しをよくするための象徴です。
  • 顔:穏やかな表情は、人間関係を円滑にする力があります。
  • 徳利:徳利を持った姿は、金運上昇や幸福をもたらす豊かな暮らしの象徴です。
  • 通帳:通帳は信頼や信用を表し、他者からの信頼を得るという商売繁盛の象徴です。
  • 腹:大きな腹は、勇気を表し困難に直面しても動じない心構えの象徴です。
  • 金玉:大きな陰嚢は、金運や財運、資産の安定や金銭的豊かさの象徴です。
  • 尾:太く大きな尻尾は、安定性と成功を表し物事を成し遂げる繁栄の象徴です。

このように八つの縁起の良い象徴が信楽焼きのたぬきには現れています。それ故に八相縁起と呼ばれています。これらをもってたぬきを縁起物としての意味合いを深めることで、商店や家庭での守護神的な存在として日本各地で信楽焼きのたぬきは愛されています。

代表的な狸信仰の例

日本には驚いたことに狸を祀った神社があります。それも決して少なくはない数の神社で祀られています。もちろん民間信仰として祀られており、神道の中では八百万の神々の中で自然崇拝として山や森、田畑の守護者としての立場が狸には与えられています。

滋賀県の信楽

信楽焼きのたぬきについては前項の通りです。商売繁盛のシンボルとして日本各地で商店の入り口や家庭の庭に飾られています。

徳島県の金長大明神

徳島県の阿波では「金長大明神」というたぬきを祀る神社があります。金長狸とは齢206歳の狸の頭の一匹で阿波狸合戦での死後に狸の正一位を得ることになります。染物屋の茂右衛門の商売を助けたことから神格化されました。日野峰神社の境内社に金長神社本宮があります。

香川県の太三郎神社

香川県の小豆島に太三郎神社があります。日本三大狸の一つとされる太三郎狸を祀っています。もともとは四国の屋島(香川県高松市)に住んでいました。霊力が高く様々な術を使いこなしたと言われています。商売繁盛・家内安全、開運招福のご利益があります。道に迷った弘法大師を助けた化け狸ということでも有名です。蓑山大明神や屋島の禿狸の方が有名な呼び名かもしれません。

四国八十八箇所霊場第84番札所、屋島寺では「屋島太三郎狸」として祀られています。

茂林寺の分福茶釜

群馬県館林市にある茂林寺は分福茶釜という有名な狸伝説があります。大まかな話の筋は、茶釜に化けた化け狸が僧に助けられ、その恩返しをするという流れです。境内にはたくさんの狸像が置かれ、商売繁盛や開運を祈願するための信仰が今も厚く行われています。

このようにざっと思いつくだけでも4つは出てきます。他にも京都府の野宮神社や北は北海道の狸大明神など狸を祀った神社は結構あります。やはり商売繁盛、金運、家内安全、良縁結びなどのご利益をもつ神としている部分が大きいのでしょう。

化け狸

さて、そんな高尚な狸ばかりではありません。狸にもいたずら好きなやつもたくさんいます。それらを総称して「化け狸」と呼ばれることが多いです。

化け狸は妖力という霊的な力を持つことが多く、人や物に変化する能力や人を騙す能力があると言われています。少し例を出してみましょう。

変身能力

化け狸は、人間や動物、無機物などあらゆるものに姿を変えることができます。前述の分福茶釜もその代表例です。多くの場合はこの能力によって人を驚かせたり、騙したりしていました。

幻覚を見せる・幻聴を聞かせる

化け狸は変身だけではなく幻を見せることも得意です。石や葉っぱをお金に見せかけたり、野原をお屋敷のように見せたりすることもあったようです。幻聴の方では狸囃子があります。夜道を歩くと笛や太鼓、鐘の音が聞こえてきて道に迷ってしまったことも語られています。

化け狸のいたずら

化け狸はよく人を化かす存在です。例に挙げた能力は一見微笑ましいものです。悪意のある化け狸の場合は人の命まで取ってしまう恐ろしいものもいたようです。しかし、全体的に見れば害意がある行動というよりもいたずら程度に思えるものの方が多いと思います。

日本の教科書にものった狸

日本では小学校1年生(6歳程度から)国語という教科で日本語や物語、説明文などを習います。国語は最適解を探すというよりも自分や相手がどう思考したかが重要な位置を占めます。その物語や説明文もしくは活動を通して、それを行う前と後とで自分がどう変容したかが大事です。

一部の国語の教科書にも狸が出てきます。日本人はどれだけ狸が好きなのか、と思ってしまいます。東京でも狸を見かけることもあったり、我が家も狸の通り道になっていたり、身近な存在だから教科書にも載るのかもしれませんね。

教科書に出てくる定番の狸の話は「たぬきの糸車」や「カチカチ山」があります。「たぬきの糸車」は恩を受けたら返すものという教訓があります。「カチカチ山」は悪い狸に対する復讐の話ですね。どれも6歳から8歳向けの教科書に載っています。

サブカルチャーとしての狸

日本はサブカルチャーに寛容な国として見られます。特にアニメやゲームの話については一昔前に比べてとても開かれた会話ができるようになりました。

狸に関するサブカルチャーの一番重要なコンテンツはスタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』だと思います。これは某多摩地区の開発に関わる問題提起を面白おかしく暮らす化け狸たちとの話です。環境破壊と経済と人間文化から見た狸文化が垣間見れるアニメ映画です。

次にゲームの『どうぶつの森』シリーズです。ここでも狸が出てきて商売を行っています。商売繁盛といえば狸という概念がよく現れていると思います。

漫画では水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』にも出てきます。ここでは隠神刑部狸が八百万の狸の軍勢を率いて日本を制圧するという恐ろしい存在で描かれています。

このように大衆文化としての狸信仰だけではなくサブカルチャーとしても狸は人気です。デフォルメされた狸も可愛いですが、実物の狸も可愛いです。しかし、ダニや皮膚病など患っている可能性があるため、無闇に触ってはいけません。狸は餌付けせず、適切な保護器で保護したら区役所に相談しましょう。

まとめ

日本における狸は大衆文化やサブカルチャーにおいても大きな役割を果たしていることになります。特に神格化された狸から6歳の教科書にのる狸までおり、その文化的な役割は一般的な日本人に取って想像以上の影響力があります。

さらに日本各地で狸は信仰の対象にまでなっています。太三郎大明神は大明神という神格が非常に高い権威が与えられています。神道や民間信仰において大明神の称号はその神格の力や徳が広く認められていることを意味します。この点からも日本人にとって狸信仰がどれだけ厚いかがわかります。

一方、狸はよく人を化かす。狸囃子や狸憑き、狸火などがそれにあたります。狸のいたずらは微笑ましいだけではなく、悪質なものもあります。その点では妖怪の一種として見ることができるのではないでしょうか。

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